• 羽中田昌

フットボール・ラブ ♯5


「フットボールに必要なスピードについて」其の1



今回からしばらく、フットボール・ラブではスピードについて考えていきたいと思います。

自分が信じるやり方で狙って勝つために必要なこととはなんなのか、年末にそんなことを考えていると「スピード」「育成」という字が、窓越しに見上げる丸い雲の隣にふわふわ浮かんできました。

実は私、「スピードがあっていい選手だったねー」「高速ドリブラーだったねー」と現役時代を称えてくれる言葉があまり好きではありませんでした。なんていうか、何も考えないでスピードだけで勝負している感じで、俺はもっと考えてプレーしてたんだぞ、とこぼしたくなるのです。でも実際にその通りで、直感とか野生の勘とかでボールを追いかけていることが多かったかな。

フットボールのスピードというものの本質を知っていて、そのスピードを効果的に使えていたら、もっと楽しくプレーできていたんだろうなと思います。

と、まあ何はともあれ、私自信がフットボールのスピードってどんなものなのかを深く知りたい、選手にスピードについて考えてほしい、子供ころからフットボールに必要なスピードを意識することが、今更ですが、どんなに重要かとあらためて考えたのでした。


前置きが長くなってしまいましたが、「La preparacion Fisica? En el futbol」というルイス エンリケ監督とともにバルサでフィットネスコーチをしていたラファエル・ポルの著書が、あまりにも面白かったので私なりに理解したことを少しずつ紹介していきます。

この本の題名を訳すと「フットボールのフィジカル?」。副題もあり、それは「複雑性の科学の視点から考えるトレーニングの作り方」?かな。これは、ちょっと手強そう。

第1章の始まりのところの4ページが“フットボールに必要なスピード”についてで、スピードの定義の変遷を説明し、最終的に自らのスピードについての考えを述べています。

冒頭では、長きに渡りバルサのフィジカル・コンディションの責任者だったパコセイルロのコメントを引用。何度も目にしてきましたが、間違いなくフットボールのエッセンスが詰まった発言です。



「バルサで最もスピードのある選手は、グアルディオラだと言っても誰も信じてくれない。でも、そのスピードはフィーゴやセルジのようなスピードとはまったく違うんだ。週に1度のスピードトレーニングで、誰よりも適切なスピードで問題解決するのがペップだった。もちろん、セルジの方が、5~20mのダッシュスピードや加速力はぜんぜん上だよ。しかし、動き出す前にチームメイトたちの配置を計算して、いるべき場所に真っ先にいるのは、いつもグアルディオラなんだ!」パコ セイルロ(2000年)


んー、いったい、どんなスピードトレーニングをしたらグアルディオラのようなスピードが育まれるのでしょうね?

過去のスポーツトレーニングに関する多くの文献から、ラファエル ポルはスピードの定義を抜粋して、その変遷をたどっています。その変化に伴ってスピードトレーニングの内容も様々に姿を変えてきたとか。なんとこの本の巻末には16ページにわたって参考文献が掲載されています。そのほとんどが研究論文で、この本も元はラファエルの大学の卒論だったのです。あっぱれ! フットボールの深淵への飽くなき追求に対する努力と情熱に驚き、ほとほと感服します。


1987年、ハーレ(Harre)は「最短時間で身体を動かす能力」をスピードだと定義。たえばただ単に目的地まで速く到達する身体能力のことですね。

1992年、Grosserは5年前の「最短時間で身体を動かす能力」に加えて「認知の速さ」をスピードの定義に加えることで新しいスピードの解釈とします。ちなみに認知とは、“人間などが外界にある対象を知覚した上で、それが何であるか、判断したり解釈したりする過程のこと”を指すそうです。

1998年には、Garcia Manso et al.が、それまでの定義に「効果的な動き」という条件を新たに付けたしました。いくら速く動けたとしても全く効果のないアクションをしても意味がない。

フットボールというスポーツの特徴を考えると、このスピードの定義がもっとも妥当だとしています。また、効果的なプレーとは“適切なタイミングでその瞬間に適したアクションを正確に実行すること”。

そのためには、今見えている状況だけではなく、ゲームがどのように展開してくかを予想してプレーできる能力が必要になるのです。

2002年、Lagoがスピードを速さではなく問題解決のための最適スピードと言い換えたらいいんじゃない?と提案。試合中、チームや選手たちは、常に自分たちの状況を有利にするために、最高のスピードではなく、最高の効果を求めてプレーしている。最適なタイミングで最適なスピードを必要としている。

2005年、Gargantaもこれと似た意見を持ち、重要なことはただ単に速いことより、実行するのがいつなのか?を理解していることだと説明。つまり、スピードは目的達成のために意図をもって使われるべきで、いくら速くても意図のないスピードは無用ということです。


以上のことから、著者のラファエルがスピードという言葉を使うとき、それは「最高速度のことではなく、対戦相手のプレッシャーによって時間的制約を強いられた中で最も効果的なプレーをすることだ」と断言しています。

プレッシャーも時間的な制約も無い中で、スピードのあるプレーをしても意味がない。試合中の厳しいプレッシャーや時間的制約を受ける中で、自分たちが有利に展開するためのプレーができるようになることがフットボールのスピードであり、トレーニングをデザインする上で、この理解が肝要なのだと訴えています。


また、「フットボールはスピードがあった方が良いという印象を持っている人が多いが、実際は遅さによって自分たちの状況が有利になるシーンはいくらでもある」とAmieiro (2007)は主張しています。

たとえば、速さの代表格とも言えるワンタッチパスは、相手がパスコースを塞ぐ前やパスを受けるチームメイトがマークされる前にフリーでボールをもらえるというアドバンテージがある。

一方、遅いプレーの代表格ともいえるドライブ(ボール保持をするドリブル)をしながらのプレーも相手を引き付けることでチームメイトがフリーでボールをもらいやすいというアドバンテージを持っています。

そう!速いプレーも遅いプレーも狙いは同じなのです。何のために速くするのか?遅くするのか?の意図が大事。このワンタッチプレーやドライブを適材適所で使い分ける能力に長けた選手は、言わずと知れたアンドレス・イニエスタ!!


最近、ピッチ上で「ワンタッチ!ワンタッチ!」と叫ぶ監督をよく見かけ、プレースピードを上げる目的でダイレクトパスのみを課すトレーニングメニューが流行っているようですが、その誤りもラファエルは指摘しています。

「そのメニューをこなすための技術は上達するけれど、状況が目まぐるしく変わる試合では何の役にも立たない。なぜかって? このメニューの優先順位は良いプレーではなく、ただ、ワンタッチでパスを多くつなぐための速いプレーだから。試合で必要なのは効果的な良いプレーであり、決して速いプレーではない」

一定の距離を最速で走る能力よりも、時間とスペースのない状況で問題解決するスピード能力の方が試合の成功に大きく影響するということでもありますね。

これに関して2002年Lagoは、「フットボールの試合の56パーセントは1~3秒のプレーなので、移動の速さはフットボールでは些細なことでしかない」と指摘しています。さらにDi Salvo (2008)、Gorostiaga (2001)、 Pol (2009)らの報告によると、フットボールでは試合中に全力で走るのはわずか2パーセントしかないそうです。

「この2パーセントで世界最高のスピードを発揮できたとしても、それが効果的なプレーでなかったら戦力として全く意味はなくなってしまう」

また、最も速く移動する選手が、良い結果を生むとは限らないことを2010年のW杯のデーターを使って紹介しました。

「スピードの際立った選手として、クリスティアーノ・ロナウドとメッシの印象が抜きんでていたことに異論はないと思われるが、移動のスピードのランキングによるとロナウドは81位、メッシは41位。ロナウドよりも速い選手は80人、メッシよりも速い選手は40人もいた」

以上のことからもフットボールに必要なスピードとは、「移動や動きの速さのことではなく、対戦相手から受けるプレッシャーによって時間的制約を強いられた中で、最も効果的なプレーをすること」だと定義できますね。


さー、これでフットボールに必要なスピードが定義できたでしょうか。私の説明が解りにくかったら、ごめんなさい。次回はその能力を向上させるための条件について書かれているので紹介します。



其の1終わり To be continued

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