• 羽中田昌

フットボール・ラブ ♯12

最終更新: 2019年5月27日

「フットボール監督について」其の5


今回は、これまでのスペイン本から「監督の1週間」について訳したものを紹介します。監督の1週間、それはみなさんの想像を超える濃密なものではないかと思います。刺激的です。


どうぞお楽しみください。




「監督の1週間」


監督の仕事はきつい!

対戦チームの分析、選手に見せるビデオや日々のトレーニングとその準備、試合や遠征の移動…。

多量多岐にわたる仕事をスタッフに差配する能力も必要だ。

しかし、その仕事は感動的かつ魅力的なものだ。

この複雑で難しい仕事をこなすには、フットボール以外でも戦略家でなければならない。選手だけでなくコーチングスタッフのボスという立場でスタッフの能力を最大限に引き出すのも重要な仕事のひとつだ。

良いコーチングスタッフは、敵チームの分析の質が高く、選手たちに解りやすくその適切な戦術的提案を伝える。その力がチームを勝利に導くのだと言えよう。


一般的にコーチングスタッフは、監督とヘッドコーチ、コーチ、GKコーチの4人で構成されている。選手のパフォーマンスやチームの目的についての意見を交わし、トレーニングのインテンシティを高めるという重要な役割を担う。監督一人でやっていてはトレーニングのリズムとインテンシティを失う。

また、GKコーチの重要性も見逃せないが、軽視されがちだということは否定できない。GKにも戦術的なトレーニングが間違いなく必要だ。言うまでもなく、例えば高い位置に最終ラインを置いてプレイするチームなら、GKは積極的にゴールエリアを飛び出してプレイするトレーニングが必須だ。


またピッチにかかわるすべての仕事をこなすコーチ陣に加えて、プロチームにはハイレベルなスカウティングの専門家たちがいる。彼らは対戦相手の特徴を高いクオリティで視覚的に準備し、さらに自分たちの試合も撮影して長所と短所を冷静に分析する。

監督にとって、より多くの情報があればあっただけ良い。

しかし、それはほんの準備段階でしかないことを忘れてはならない。本当の意味で監督の仕事の質を示すのは、それらの情報の分析能力だ。具体的にどうやってチームを改善するのか。そのやり方は様々でそれぞれの監督が異なった方法論を持っている。


さて、ここで週末から始まる監督の1週間(8日で2試合の土曜日から次週の日曜日まで)を簡単に紹介させてもらう。

自チームと次の対戦チームの試合が終わった時点から監督の1週間は始まる。

まずは分析である。時間は限られている。いっぱい、いっぱいになりながらスカウティングスタッフが提供する情報をもとに自チームと対戦チームの分析をする。この間、外部との接触を一切立ってひきこもる。そう時間との戦い。頭は100%フル回転だ。

これらの分析は、他のコーチングスタッフも監督と同じように各自が週末を使ってしなければならない。すべての分析は自分のやり方で個別に行い、それぞれの見解を導き出す。それらを持ち寄るディスカッションこそが、より豊かな分析につながるからだ。

その後、監督は決断をする。この決断が普通の監督なのか偉大な監督なのかを分けるのだ。


自チームの試合分析は、あくまでチームに対する分析であり、自分が何を探しているのかを明確に意識しながらビデオを観なければいけない。

例えば60分の時点で犯したパスミスは関係ない。チームがブロックを作って守備をしているとき、左から右へのスライドで遅れた選手がいたのも問題ではない。カウンター時、ある選手のシュートゾーンへの到達の遅れもどうでもいい。つまり個人の能力の分析を行うのではない。

肝心なのは、ゲームモデルのプレイ原則が守られていたか?

トレーニングしてきたオートマチズムが機能していたのか?

狙った場所でプレッシングができていたのか?

なぜ敵の危険な攻撃は、予想・準備していた左ではなく右からが多かったのか?…などだ。

それらのより多くの情報が次の試合までの1週間のトレーニング計画には欠かせないということ。そう、これがチームのゲームモデル改善につながっていく。


さらに、分析はこれだけでは終わらない。次は対戦相手の番だ。ここがその週のトレーニングをどう計画するか決めるのに最も重要なファクターとなる。

まず、相手の特徴・レベルを知るところから始める。例えば左のエクストレモ(ウィング)の選手は後ろのラテラル(SB)とポジションが重ならないためにどうポジションをとるかとか、セットプレー守備はゾーンなのかマンツーマンなのか、GKのクロスへの対応はどうなのかなど…。

そして、ここで特にスカウティング担当の力量が試されることになる。監督やコーチが時間を節約するために重要ではないプレイを削り、できるだけ観る時間を短縮できるようにするのだ。つまり、試合の流れを読むこと。対戦相手のプレイがトレーニングでやってきたことなのか、一時的なものなのかを見極める能力が要求される。

例えば、対戦相手の選手がサイドからセンターに向かってドリブルできる状況なのにクロスを選択したとする。それはチームの戦術に沿ってトレーニングしてきたプレイなのか、それとも、その選手の瞬間的な閃きから生まれたプレイなのかを判断する。


また監督の対戦相手の分析作業は、特定の場面を切り取り、視覚的に選手たちに示すことも極めて重要になる。マッチアップする相手の特徴や役割を理解するためにまとめられたコンパクトな映像を用意し説明する。

例えば左エクストレモは右利きで80パーセントの確率でインサイドに入ってプレイするという特徴を自チームの右SBに強く印象付けなければならない。


さて以上の通り、週末の監督の忙しさを綴ってきたが、当然これだけでは終わらない。まだ2つの仕事が欠けている。それは、もっとも難しく重要なもの。

対戦相手に応じた戦い方を決めて、1週間のトレーニングの内容を準備することである。分析し導かれたものをトレーニングに落とし込むための作業とも言えよう。

例えば相手の両SBがとても攻撃的だったら、相手の2CBと味方の2トップで2対2になることが多い。よってメディオセントロ(MF)のパスから2対2の状況を利用するトレーニングメニューを考える。メディオセントロがSBの裏のスペースにパスを出せばCBの一人が引き出されて、メディオセントロと残ったトップで相手のCBとの2対1ができる。またはメディオセントロがボールを運びながら侵入すれば相手のCBが一人引き付けられるので2対1をつくりやすくなる。


これらすべての準備を週末に終えてから、やっとトレーニングとミーティング、ビデオを見せる日々が始まるのだ。そして、同じ言葉を何度も繰り返しながら、試合前に話す最後の言葉も考える。まさに密度の濃い時間。この時間があり、再び戦いのピッチへと足を踏み入れることができるのである。


To be continued

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