• 羽中田昌

エッセイ 韮崎生活 ♯12


12「よいお年を!」





リビングのスピーカーから大音量でガンガン流れるiTunesの定番洋楽クリスマスソング。

いつものノリとはちがい、この響きは、朝、目を覚ましたときからの頭痛と右肩甲骨辺りの痛みには少々こたえた。「ちょっとだけ音小さくするよ」、そう言ってマイナスのボタンを1.5秒。

痛みは一年の疲れがどっと押し寄せたのか、気圧の変化によるものだろうか。いずれにしろ大したことはない。それで私は、右手を顔の前に、すっと立てて、まゆみに整体を願い出た。

「お願い、背中やってくれる?」

「いいよ、じゃあ、ちょっと部屋あっためてくる」

まゆみの足は、玄関の踊り場を隔てたリビング隣りの治療室へと向かう。

施術用ベッドに仰向けの状態で横になると、天井のすぐ下の〝はめ殺し窓〟から横長の空を拝める。その日は、綿菓子を伸ばしたような雲の向こうに薄ぼんやりの青空。柔らかな陽光を感じた。以前、北海道出身の友人と交わした何気ない会話の一コマを思い出す。

「この分じゃ、今年もホワイトクリスマスはないな」

「わたしはホワイトクリスマスしか知らなかったよ」

あーそうか、と思った。ふと、申し訳ない気持ちにもなった。健さん主演の映画「駅STATION」の居酒屋・桐子の外の雪景色が窓枠の中にも浮かぶ。それから、うとうとと何度か小さな眠りに吸い込まれながら施術はすすんだ。


「羽中田さーん、恐れ入ります。ごめんください。羽中田さーん」

リビングに流れるクリスマスソングの切れ目のところで、家の外から郵便屋さんの声が聞こえてきた。おそらく、インターホンを鳴らしても応答がなかったものの、家の中に人の気配を感じて何回も受取人の名前を呼び続けてくれたのだろう。

「はーい、すいません。気がつかなくて」

まゆみが慌てて玄関口まで行って受け取ったのは、私とまゆみ宛のゆーパックに入った絵本と手紙だった。

施術を終えてリビングへもどると、すぐにお湯を沸かしてコーヒーを淹れる。絵本「しろうさぎとくろうさぎ」を手にとってしばらく表紙を眺める。まず手紙の方を先に読ませてもらった。

便箋には月の絵があしらわれ、我が家の愛犬ルナ(月)を意識して、この便箋を選んでくれたのかな、と思い、その温もりがコーヒーの芳ばしさと混ざり合う。そのルナは番犬を放棄して、相変わらず炬燵の中にもぐり込んでいた。

「あたしが先に読んでいいかな?」

「え、じゃあ声に出して読んでよ」

まるで絵本のおはなしのような手紙をまゆみが読みはじめる。私たちには、この三枚の便箋に綴られた美しい文字すべてが、70を前にしたキュートな彼女からのクリスマスプレゼントだと感じられた。

絵本は、いつもじゃんけんの強い私が先に表紙の扉を開いた。「しろうさぎとくろうさぎ」、読み始めてほんの少しすると、まゆみがコーヒーを啜りながら「今日のあたしたちの服の色って、うさぎたちと同じだね」と教えてくれた。ちょうど私が黒のニットのセーター、まゆみは仕事用の白の長袖Tシャツだった。

あっという間に森の中を舞台にしたはなしを読み終えると、手紙にも触れてあったが、私のココロの奥底にも「ほんとうに そうおもう」といううさぎたちの言葉がこだました。


これまで、私は〝ほんとうにそう思った〟ことをやってきたのかな。あやしい。

「ほんとうに そうおもいながら、人生を歩いていけたら、どんなに素晴らしいでしょうか」、彼女の手紙の一行を噛み締めながら2018年の韮崎生活を終えたい。


みなさん、よいお年をお迎えください。


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