• 羽中田昌

エッセイ 韮崎生活  ♯2

最終更新: 2018年10月30日

「ハナミズキを見る窓」



この時期、ルナの朝の散歩は6時半ごろ。今日(10/13)も願成寺の駐車場に向かって、まゆみと出かけた。

ちなみに散歩コースは他にもある。例えば水神さんにご挨拶をして、水路に沿って歩くのもいい。

家の玄関を出ると、庭の右手にたたずむハナミズキの葉が風に揺れている。

ブルブルっときた。長袖を羽織って外に出たが、それでも寒さを感じたので、まゆみがもう一枚上着を持ってきてくれた。散歩をしながら「こたつ、どうする・・・」、ちょっと気が早いが、そんな会話も生まれる。

今回はリビングの「縦すべり出し窓」について書く。


この窓は枠の上下に設けられた溝に沿って、外側にすべり出させて開ける。車椅子ではレバーに手が届かないので、換気と通風の際はまゆみが登場。私はもっぱらテーブルに頬杖をついて縦1m、横60㎝ほどの眺望を拝むのが専門だ。

この時期なら少し紫がかった赤に、ちらほら緑をちりばめたハナミズキの紅葉が目に楽しい。めかし込んだ枝葉が、風にのって楽しそうに踊る。背景は薄い曇り空、電線も軽く波を打つ。

ハナミズキの苗木が庭に植えられてから25年になる。

82才で他界した義母の還暦のお祝いに子供たち三姉妹が穴を掘り、元気だった義母が最後に土を入れた。静かな情景が昨日のことのようによみがえる。ハナミズキは5mほどに成長している。


若くして夫に先立たれた義母は実直を絵に描いたような苦労人だった。

製麺所で働きながら娘三人を立派に育て上げ、長男である亡き夫の父母の面倒も最後までみた。製麺所では鍋焼きうどんのラインに入り、家に帰ってからは田んぼや畑を切り盛りした。

八ヶ岳おろしが吹き荒む冬の朝、通勤途中に歩いて渡る武田橋は、小柄な体には堪えたに違いない。川は冷たい風の恰好の通り道となる。

まゆみとの結婚の許しをもらうため、甲府バイパスのレストランで食事をしたことがある。記憶は定かではないが、義母とは、これが初対面だったかもしれない。

私は相当緊張していた。車椅子に乗った姿を見せるのも怖かったし、正直、直ぐに結婚の許しを得られる自信もなかった。「結婚は諦めてほしい」と言われるのも覚悟はしていた。

義母は最初から無口だった。怒っているようにも見えた。挨拶をして、目をそらされたのにも動揺した。

後で聞いた話では、そらしてない、と強く言い張るが、私にはそう見えてしまった。まゆみ曰く、「ママちゃん(義母)は昔の人だから、男の人と馴れ馴れしく目を合わせるのは、良くないことだと思っているみたい」。


なかなか、落語でいう枕の話が弾まなかったので、私はまゆみに目配せをして直ぐに本題に入ることにした。

「お母さん、いきなりですいません。まゆみちゃんと結婚させてください。必ず幸せにします」

「あ、はい。でもね・・・」

「県庁職員なので、安定もしていますし、どうぞお願いします」

「あ、はい。でもねー、本当にまゆみでいいんですか。この子は癇癪持ちだから、きっと苦労しますよ。それでもよかったら、もらってあげて下さい。よろしくお願いします」

「えっ!、ありがとうございます。絶対、幸せにします」

義母はちょっと薄くなった頭を深々と下げていた。私とまゆみも深々と頭を下げていた。

それにしても何故、県庁職員という言葉を持ち出したのか。昔の人は親方日の丸という言葉に弱い、というイメージがあったからかもしれない。

私はその5年後、安定を捨てることになる。つまり義母に嘘をついてしまった。


結婚の許しを得た後は、だんだんと話が弾むようになった。義母も相当に緊張していたそうだ。だが、その緊張は私に対するものではなかったというのが微笑ましい。

「だって、お母ちゃん、こういうハイカラな所にあんまり来たことないから、なにを注文したらいいか分からなくて緊張しちゃった」

「・・・!」

義理のお母さん、西洋のグラタンというもを食べると、実はかなり前から決めていた。ほぼ頭の中はそのことで一杯だったようだ。


もう1つ、この窓からよく見るものがある。晴れた日、まだ上りきらない、東の空にある太陽だ。見るというよりも拝む、浴びると言った方が正しい。

この時期(秋分の日、春分の日あたり)なら7時ごろになるとハナミズキの上にちょこんと太陽がのっかる。私は直ちに目を細めて朝の柔らかな太陽とハナミズキに無意識に感謝する。

それから暫く、ボヨヨーンと輝く、ゴッホの描くような太陽の光を浴びる。脳内の松果体を活性化させて、幸せホルモンを生成するのだ。

少々長くなるが松久正著「松果体革命」から3つのくだりを紹介させてもらう。


『松果体は赤灰色で、グリーンピース(7〜8ミリ)ほどの小さな内分泌器官であり、脳の中心にあります。その形は、まるで松ぼっくりのようです。

解剖学的に説明すると、第三脳室の後方、左右の第四脳室の中間、そして下垂体の上方、視床下部の少し下にあります。


「これでいいのだ」と、〝バカボンのパパ〟としてゆるんで生きることで、「松果体」は活性化し、「松果体」が活性化すると、さらに「これでいいのだ」と受け入れられるようになりす。

こうして「ガチガチ」地球人は、楽で愉しく生きる「ぷあぷあ」新地球人になれるのです。


松果体は、光に反応して働く器官です。本来は暗くなったときに、活動的になります。日中の明るい時間帯は休んでいて、夜、眠っている時に活動します。

ところが、日中に太陽を直接見ることで、松果体は「セロトニン」を産生します。セロトニンは、「幸せホルモン」と呼ばれており、人生を豊かにします。

その後、夜になって太陽の光がなくなると、セロトニンはメラトニンに変換され、心地よい気分と眠りを生みます。また、セロトニンは、幻覚物質である「DMT」に変換され、非日常感覚や体験を生み出し、そこからいろいろな気づきや学びが生まれます。』


9月下旬、韮崎を直撃した台風24号の翌日、まゆみが3㎝ほどの松ぼっくりを拾ってきた。今は玄関にある棚の上に無造作に置いてある。

「ほらほら見て、大きな松果体でしょ。庭に落ちてたよ」

本当は心配で心配でたまらなかったはずなのに、私たちの結婚を軽く許した義母の松果体は、きっと人より大きかったと思う。

この家は地道な義母が残してくれた大事な土地に建てたもの。大切にしていきたい。



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